一番驚いていたのは、樹自身だった。
まさか、あんなものが出るとは。

せっかく不思議世界に迷い込んだのだ。
その不思議な力をあいつらに使えて、自分に使えぬわけがないと。
樹は考えた。

実際は、半信半疑だった。
目の前で見たのだから、そういう技術があるのは分かったが
自分が使えるとは、とても思わなかった。

だが、もし使えたならば・・・

それは、大きな武器になるとも考えた。

ものは試し。

本当にその程度の考えだった。

手に持ったカッターナイフを握り締め、後ろを振り向く。
そして、手にしたカッターナイフを投げた。

変な事はしていない。

ただ、念じただけだった。
何か大きな力を持てと。

その時にイメージしたのが、あの時のクワガタムシだったのかもしれない。

どちらにしても、こういう力があることが分かった。
これは、大きな収穫だ。

そして、こんなところに出口があったと知る事ができたのも大きな収穫だ。

残る問題は、この力を自分でコントロールできるかだ。
使えることが分かったとしても、操れなければ意味がない。

試しに、さっきの様に手を前に出して念じてみた。

何もでない。

さっきは、カッターナイフがクワガタムシに変わった様に見えた。
ということは、何か素材となるものが必要なのだろうか・・・

運んできたトレイを見る。

「今日はチャーハンとスープか。」

樹は、食事に手をつける。
ただ、ひたすらに黙々と食べる。

しばらくして、食事を終える。

「ふう・・・」

一息をついて、手にしたレンゲを見る。
これは、素材になるのだろうか。

目を閉じて、イメージする。
さっきのような生物系はダメだ。
万が一操れなかった場合、自分を危険にさらす事になる。

できるだけ、自分の考えられる強いものをイメージする。

手にしたレンゲの形状が、変わったいくような感じがする。
しばらくして、目をあける。

しかし、レンゲに変化はなかった。

それも、そうだ。
今、俺がイメージしたものはピストル。

こんな、陶器では素材にならないだろう。

目線を下に下げる。

変形したトレイの上には、ドス黒いピストルが置いてあった。
手にとって、感触を確かめる。

「思ったより重いんだな。」

モデルガン。というオチでは、ないようだ。
慎重に、マガジンを外し中を見る。

弾は込められていなかった。
どうやら、ピストルだけ作ってしまったらしい。

調べるだけ、調べるとピストルを床に置く。

大体の勝手は分かってきた。

床に腰を下ろす。

そして樹は考えていた。

自分は、まだ人間なのかと。

          



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