さて、おそらくあのクワガタムシは大顎から電撃を流す事が出来る。
その事は、自分の左腕が証明していた。

大分治まったものの、火傷だろうか?熱がひどい。
ジリジリとする痛みと熱さが、左腕を襲っていた。

とりあえず、今日の『変化』はアイツだ。間違いない。
これで、間違いだったら怨むぞ。

だとしたら、このカッターは一体なんなのだろうか?
武器として、ヤツラが与えてくれたものなのか?
それとも、他に何らかの意図が・・・

とにかく、今はそんな事を考えている時間はなさそうだ。
こいつがいる限り、俺が安心して眠れる夜は二度と訪れないだろう。

見た感じ・・・
あの大顎以外は普通のクワガタムシと比べて何ら変わりはないようだ。

つまり、大顎に触れずにクワガタムシを殺せれば・・・

もう一度、カッターを見る。
こいつで、殺るのは無理だろうか?
クワガタムシといっても、甲虫の仲間だ。
昆虫の中では、かなりの防御力を誇る肉体の持ち主のはず。

だが、こちらは耐久力に関してはかなり分が悪い。
下手をすれば、突き刺した瞬間にぶち折れる可能性だって無くは無い。
大体、刺さるかどうかも疑問だ。

と、なれば・・・

踏み潰すしか、無いか・・・
全体重を乗せて、頭以外の体を踏み潰せれば確実に仕留められるはずだ。

だが、もしヤツが急旋回をして大顎に触れたならば・・・
いや、そういうことは考えない方がいいな。
とにかく、そっと近づいて踏み潰す。
ただ、それだけだ。難しい事ではない。

上手い具合にヤツは、トレイから離れてコンクリの上を這いずり回っていた。
ゆっくりとヤツの背後に回る。そして、徐々に間合いを詰めていく。

あと一歩踏み出せば、ヤツを踏み潰せる。
踏み潰す時は、つま先ではダメだ。
体重が乗らないし、イマイチ照準が会わせ難い。

ヤルなら、踵だ。
ゆっくりと右足を上げ、狙いを定めていく。

普通に、踵で踏み潰したら頭までいってしまう。
だから、縦ではなく横に踏み潰さなければならない。

相手の動きを、予測しながら樹はその右足を振り下ろした。


          



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