『スタンガンアントラー』
                     鍬形型放電銃

正式名称 スタンガン・アントラー・ビートル。
「放電銃の大顎を持つ甲虫」を意味する。
台湾で開発されたリオーグ昆虫で、DT発電機の作用で1000V近い高圧電流
を発生する事が出来る。その点以外はただのクワガタムシである。
合成時間は約一秒。体重は1kg以下である。

ちなみに、放電銃とはスタンガンの事であり
リオーグとは、DT技術を使って改造された一種のサイボーグの事である。

もちろん、田中樹はこの事を知る由はなかった。





カサカサと蠢く音は、朝食のあるトレイから聞こえてきた。
血染めのカッターを手に、何事かとトレイを上から見下ろしてみた。

クワガタムシだった。

何の変哲もない。ただのクワガタムシ。
なぜクワガタムシがここにいるのかは、ひとまず置いておくとする。

問題なのは、このカッターとクワガタムシ。
どちらが、今日の『変化』なのかだ。
それとも、どちらとも今日の『変化』なのか?

・・・・・・・・・

とりあえず、コイツを退かすとするか。
食い物に触れられでもしたら、たまったものではない。

樹がスッと、クワガタムシに手を伸ばす。

あと数cmで捕まえるというところで、手が止まる。
果たして、そう簡単にこいつに触れてもいいものだろうか?

ヤツラは、行動が間違いなら何らかのペナルティが与えられると言っていた。
もし、コイツを捕まえて退かすことが間違った行動だとしたらどうなるのか?

・・・・・・・・・

もう少し、慎重に事を運んだ方がいいのかもしれない。
もうすでに、ゲームは始まっているのだ。

コイツが、普通のクワガタムシであるはずがないな。
何か仕掛けがあるはずだ。もしくは、このカッターか?

コイツの中で、一番気になるところといえばやはり・・・
ハサミのような大顎だろうな。コイツの一番の武器だろうし。

とりあえず、何か鋏ませてみよう。
サラダのレタスを手に取り、クワガタムシに近づけていく。
ツンツンと、クワガタムシの口と思わしき部分を小突く。
最初はゆっくりと、レタスを挟むのかと思ったがクワガタムシの動きは
思いのほか早かった。

ジャキンとでも、聞こえそうなぐらいのスピードでレタスは挟まれた。
すると、不可解な出来事が起こった。

火花が散ったのだ。

だが、正確にはそれは不可解な出来事の始まりでしかなかった。

火花が散ったかと思うと、目の前がいきなり明るくなった。
否、明るいなんてものではない。目の前が真っ白になったのだ。

何が原因か、それは今の段階では分からなかった。
ただ、このままでは危ないという事だけは分かった。

急いでレタスから、手を離す。
離したと同時に、私の左腕に強烈な痛みが襲った。
焼けるような、痺れるような、そんな痛みだった。

まだ、目が霞んでいる。
次第に、視界が元に戻ってきた。

何か焦げ臭い匂いがして、それは私の左腕から匂って来た。

大体肘辺りまでだろうか、皮膚が焼けて煙が上がっていた。
おそらく、原因はさっきの痛みだろう。

では、その痛みの原因はなんなのか?

答えは、簡単だった。
カンニングするまでもない。

それはハサミを何度も動かして、火花を散らせながらこちらを見ていたように
思えた。

ジャキン、ジャキン。

今度は、はっきりと聞こえるようにハサミを鳴らす。

やれやれ、さっきの行動は間違いだったようだ。
だが、まだ生きている。チャンスはまだ残っているようだ。


          



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