ジリリン・・・・・・ジリリン・・・・・・


俺の息は荒く、そして速かった。
さっき見渡した時には、確実に『公衆電話』なんて無かった。
それも、台もきっちりセットしておまけにコンセントや電話線まである。

ありえない

その一言で十分だった。
時間にしてほんの数分。俺が、食事に集中していた時間だ。
そのたった数分で、何の音も無く、すべては完了していた。

ありえない

体が硬くなっていくのが分かる。
それでも、電話は鳴り続けている。

ジリリン・・・・・・ジリリン・・・・・・

俺に残された選択肢は一つだけ。

電話に出ること

たったそれだけの事。たったそれだけのことなのに・・・

ジリリン・・・・・・ジリリン・・・・・・

とにかく、電話に出よう。それしかない。

ジリジリと公衆電話に近づく。
それは『歩く』というよりも、むしろ足を『引きずる』といった感じに近かった。

一歩・・・ 二歩・・・

引きずっているのに、この数え方でいいのか?
などと下らない悩みを抱えながらも、確実に公衆電話へと近づいていく。

ハァ・・・ハァ・・・

もう、ずいぶん近くまで来た。
手を伸ばせば、受話器に手が届くのかもしれない。

でも、俺はそれをしなかった。
少しでも、あの電話に触れる事を拒みたかった。

だけど、その願いも叶いそうに無い。

ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・

もう、電話が目前にまで迫っていた。
手を伸ばせば、確実に届く距離。

俺は、静かに目をつぶって深呼吸をした。

一回・・・ 二回・・・ 三回・・・

その時、一際大きく電話がなったような気がした。

そして、気がついたときには行動は終わっていた。


          



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