三日目

起きて、まず時計を見る。
まだ、頭が起ききれていないのか時計がゆがんで見える。
目を閉じて、深呼吸。 1回・・・ 2回・・・・・・
何度か、深呼吸をして目を開ける。
昨日寝たのと、同じぐらいの時間だ。
昨日がもし、夜に寝たとしたならば今はおそらく朝になっているはず。
目を閉じて、耳を澄ましてみる。特に何も聞こえない。
車の音、鳥の声、人の雑踏。何も聞こえない。
「ふぅ・・・」
どうやら、状況はちっとも変わっていないようだ。
いや、一つだけ違う。

『俺は生きている』

てっきり、寝ている間に死んでいるのかと思っていた。
だが、死ぬどころかむしろグッスリとよく眠れたような気さえする。
どうやら、自分は神経が図太い人間らしい。

とにかく、飯を食って死ぬことは無い。
ということだけは、分かった。一歩前進。

では、この扉の向こうにいる『ヤツ』は一体俺に何を求めているのか。
ここに閉じ込めて、狂い死なせることが目的?

しかし、狂わせるのなら情報を一切与えないはず。
ここには、時計に飯。非常に少ないが、安心の種がある。
時間が分かり、腹を膨らませることができる。
これだけでも、あるのとないのとじゃ大違いだ。

とりあえず、飯にしよう。
食うもん食わなきゃ頭が働かない。

扉の前を見る。
そこにはトースト、ベーコンエッグ、サラダに牛乳と非常に洋風な朝食が
置いてある。昨日のドーナツの皿は、すでに片付けてあるらしく、どこを見回しても
見つけることができなかった。

今度こそ、毒が入っているかも・・・
と少し思ったが、それよりも空腹のほうが勝っており何よりも昨日のドーナツに
何も入っていなかったという安心感があった。

「普通にうまいな・・・」

もしかしたら、特別うまいものでも無かったのかもしれないが昨日ドーナツしか
食べていない俺にとっては、まさにご馳走といっても過言では無かった。

すぐさま、食い終わったがトマトだけは残した。どうも、トマトだけは苦手だ。

「ふぅ、さてこれからどうす・・・」

ジリリン・・・・・・ジリリン・・・・・・

戦慄が走ったとでも言うのだろうか。
体は震え、体温が下がり、冷や汗をかく。

ジリリン・・・・・・ジリリン・・・・・・

このまま振り向かずにいるだけで、確実に狂ってしまうだろうと確信した。
しかし、ただ『振り向く』という行為でこんなにも恐怖を感じたこと一度も無かった。

「ハァ・・・ハァ・・・」

ただ、座っているだけなのにひどく疲れる。
『ゆっくり』 ものすごく『ゆっくり』と、後ろを振り返る。
ジリリン・・・・・・ジリリン・・・・・・

さっきは確実に無かったものが、そこにはあった。
その瞬間に、俺は初めて『絶望』という言葉の真の意味を知った。


           



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