「さて、一体どうしたものだろうか?」
田中樹は考えていた。
右も左も、上も下も、おまけに後ろも壁だった。
カビ臭い・・・ どうやら、自分は地下にいるらしい。
コンクリ剥き出しのまさに牢獄のような部屋だった。
ただ、目の前の扉以外をのぞいては。
あれは、本来人が自由に出入りできるようにつけられているはずだが・・・
どうも今は、外から鍵をかけられているらしく。
押しても引いても開かなかった。

自分がここに来てから、おそらく二日目。
おそらくというのは、ここに来た時の記憶が無いためだ。
目覚めた時の腹の空き具合と、目の前にあった目覚し時計から判断した。
朝の十時か?それとも夜の十時か?
重要なのはそんなことではない。
なぜ!俺は!今!この状況の中にいるのかだ!
だが、焦ってもどうしようもならない。
いくら泣き叫んだところで、状況はこの状態のままだ。

少し整理してみよう。
俺はある日気づいたら、謎の牢獄に閉じ込められていた。
窓は無し。扉は開かない。何故か目覚し時計はある。
そして、朝起きたら食べ物が扉の前に置いてあった。
ドーナツだ。見た目は極々普通のドーナツだ。
まだ、口にはしていない。毒物が入っているかもしれないから。
しかし、よく考えてみたら・・・
俺を殺すのに、わざわざこんな面倒な事をするのだろうか?
それとも、殺す気があちらには無いのか?
どっちにしても、食べても死ぬかもしれないし、食べなきゃ結局死ぬ。
それなら、食った方が利巧か。悪い賭けじゃないはずだ。
このドーナツで俺を殺す意味がまるで無い。
酔狂にしても、やり方が幼稚すぎる。もう少しマシな手を考えるはずだ。
一応割って中を確かめてみる。特に何も入ってなさそうだ。
恐る恐る一口・・・ 二口・・・ 三口・・・
「ゴクン・・・」
飲み込んでしまった。もう後戻りは出来ない。
さあ、俺はどうなってしまうのだろうか。
このまま、死ぬのか。それとも生きれるのか。
生きたとしても、ここから無事に出られるのか?
考えるのは少し休もう。頭が痛くなってきた。
とりあえず、少し眠ろう。

田中樹は眠りに落ちた。
これから、ドーナツの毒で殺された方がマシだと思えるような事件に
巻き込まれるとも知らずに・・・
          



inserted by FC2 system